大切に受け継いでいくこと

南無阿弥陀仏

圓福寺住職 池 田 常 臣

石見銀山が世界遺産に登録された理由の一つが、環境保全にあるという。当時の石見銀山運営は、木を伐採した後には必ず植林をして、決して禿山にしない。だから今でも、当時のまま環境が保たれているのです。

数年前に浄土宗三祖良忠上人の誕生された地、石見三隅の良忠寺を訪ね、その日は石見銀山から程近い港町の、温泉津(ゆのつ)温泉に泊まった。

翌朝温泉街を、浴衣に下駄履きでのんびり散策していると、「いってきます」と大きな声で小学生が自宅を飛び出してきた。
その子供が、後ろから私を追い抜きざまに、「おはようございます」といって、走り抜けていった。
どうやら、私に挨拶したようであった。
暫く歩いていると今度は、玄関の前にいた別の小学生が「おはようございます」と、突然私に声を掛けてきた。暫く間を置いてから「おはよう」と声を返した。いきな
り元気よく声を掛けられ、しばし戸惑ってしまった自分を顧み、知らない者同志でも挨拶しあうことは当たり前なのに、思い返せば昨今こういう当たり前の挨拶が、少なくなったものだなあと感じたのである。

この地方はもともと、お念仏の信仰の厚い地であり、浅原才市という篤信の念仏信者が出ている。
「ねんぶつを もうすというけれど もうさせていただく なむあみだぶつ」
彼の歌であり、「もうさせていただく」というところに深い念仏信仰を感じることができる。

この地方が、従来からお念仏の信仰が篤く、地域の人々が環境を大切に守ってきた背景があればこそ、それが脈々と受け継がれ、今も息づいている。
そして、小学生の子供でも、初めて会った旅行者に「おはようございます」と自然に言わしめるのだと思うのです。
このように地域に根付き、受け継がれてきた信仰心や生活習慣というものは、是非大切に受け継いでいきたいものである。

南無阿弥陀仏のお念仏の信仰と、日々生活の中での挨拶、そして環境に配慮する心こそ、私たちがしっかり受け継いでいかなければならないものであり、そのことが残されている地域にある石見銀山こそ、紛れもなく世界遺産にふさわしいものであると思うのです。

合掌十念

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